週刊誌の記事を鵜呑みにしないで!~フルーツの食べ過ぎは肝臓がんになる!?~
すっかり秋です。フルーツが美味しい季節になりました🍂我が家でも梨や柿が食卓に登場します🍐
そんな折、スマホのニュースに「フルーツの食べ過ぎは肝硬変や肝臓がんのリスクを高める」と書かれた記事を見つけました。
「…何を言っているの…?」肝臓専門医として、驚きを隠せません。
記事の題名もまた、捉えようによってはアルコールや揚げ物よりもフルーツの方が悪そうにも読める書き方で(よく読むとそうは言っていないのですが)、編集者の悪意しか感じません。
そんなこと誰が言っているんだと思い、試しに「果糖」「肝臓」と検索すれば、同じような週刊誌のネット記事や、ときにはこのようなクリニックのブログがひっかかる、ひっかかる。
おそろしい。
もちろん根拠がゼロではありません。ただし、とんでもない、とてつもない飛躍です。
まず、その記事の論理をご説明します(したくもないけれど)。
①果物には果糖が含まれている
②果糖はそのままではほかの臓器で使えないエネルギーである
③果糖の一部は肝臓で代謝される
④肝臓で果糖は一部脂肪酸に変わる
⑤脂肪肝の原因の一つは肝臓で合成された脂肪酸である
この5つの事実を、そのままつなげてみてください(やってほしくはないけれど)。
果物を食べると全部肝臓に入っていって、脂肪になっちゃって、そのまま肝臓にくっついている像がイメージされませんか?
違います、違います!!5つの事実を、都合のいいストーリーに解釈してつなげているだけで、真に体内で起きていることを反映していないのです。
それぞれの事実を検証しましょう。
①果物には果糖が含まれている
そのとおりですが、果物は果糖100%でできているわけではありません。
果物の多くを占めるのは水分です。次が食物繊維。それからミネラルやビタミンも豊富に含まれます。
「果物が血管の老化を早める」なんていう似たような記事も見かけますが、それも飛躍です。
果糖自体は確かに糖化反応を起こしやすく、動脈硬化を早めますが、それは「果糖を大量に一気に吸収したとき」です。
果物には食物繊維が含まれているおかげで、その吸収のスピードがゆっくりで、通常の果物の食べ方では糖化反応を起こすことは考えられません。
血糖上昇もゆるやかで、菓子パンなどよりは性格のいい糖質です。
②果糖はそのままではほかの臓器で使えないエネルギーである
果糖はブドウ糖のように脳や筋肉で利用することができないので、利用できるブドウ糖や、グリコーゲンという貯蔵用の糖分に変換されます。
③果糖の一部は肝臓で代謝される
果糖の代謝を行っている臓器は通常小腸です。小腸で処理しきれない量の果糖が体に入ってくると、そのまま吸収して肝臓が処理を助けてくれます。
通常は小腸でグリコーゲンまで代謝されたうえで、肝臓に運ばれてなにかあったときのためのエネルギー源としてとっておきます。
貯蔵したグリコーゲンは、お腹が空いたときはブドウ糖に戻して血中に放出されて、しばらくご飯を食べなくても生き延びれるシステムができています。
④肝臓で果糖は一部脂肪酸に変わる
②③で書いたように、果糖はブドウ糖やグリコーゲンに変換されるのがメインですが、一部は脂肪酸合成に回ります。
脂肪酸合成の過程で尿酸が作られるので、果糖には尿酸値を上げる側面もあります。
⑤脂肪肝の原因の一つは肝臓で合成された脂肪酸である
肝臓で果糖から作られた脂肪酸はde novo脂肪酸といわれ、脂肪肝の原因になります。
しかし、脂肪肝の原因となる脂肪の由来は、80%が肝臓外からの脂質(体内の脂肪組織から血中に出た脂肪酸や食事の油脂や乳脂肪)で、de novo脂肪酸由来はたった5%とされています。
(専門的になりますが、MASLD/MASHという生活習慣病が関連した脂肪肝の場合は、de novo脂肪酸の沈着率が高く、25%程度と言われています。つまり「MASLD/MASHの方は脂質の摂取だけでなく、糖質の摂取でも脂肪が肝臓につきやすい」といえると思います。)
「果物には果糖が含まれている」「果糖を一気にとると処理しきれない果糖が肝臓に運ばれる」「肝臓に行った果糖の一部が脂肪酸に代謝される」「その結果できたde novo脂肪酸が肝臓にくっつく脂肪の5%を占める」
これをどうやったら、「果物は脂肪肝になる」と線結びすることができるのでしょう。さらには肝硬変やら肝臓がんやら、恐怖心を煽るワードまで引き出して。
まるで『風が吹けば桶屋が儲かる』です。風が吹いて砂ぼこりが舞ったとしても、目が見えない人は増えないし、その人たちが全員三味線を始めるわけがないのです。
しかし、私は「果糖が安全」と言っているのでもありません。これまた飛躍になってしまいます。
むしろ「果糖を大量に一気に摂取すること」は危険といってもいいです。
果糖を大量に一気に摂取できる方法があります。
それはジュースや炭酸飲料などの清涼飲料水です。喉が渇いていれば500mlくらい一気に飲めてしまいますよね。
これらには、果糖ブドウ糖液糖やスクロース(ショ糖)が大量に含まれています。ショ糖は分解されると果糖とブドウ糖です。しかも、吸収を穏やかにしてくれる食物繊維が入っていません。
一気に血糖を上げ、高血糖は喉が渇くので、また飲んで・・・結果一気に糖尿病を発症することがあります。ペットボトル症候群と呼ばれます。
糖化反応で動脈硬化を促進し、癌や心疾患などのさまざまな病気のリスクを上げます。
摂取量が多ければ小腸で処理しきれない果糖が肝臓に運ばれ、de novo脂肪酸も増えるはずですから、脂肪肝を進めることになります。
(正直、運動するときのスポーツ飲料と脱水のときの経口補水液を除いて、糖分を含む清涼飲料水は飲まないことをおススメします。)
果物のままでも食べる量は適正に保たなければなりません。
どんなにいいものでも食べ過ぎれば害になることが多いものです。
果糖は糖質として代謝されますが、満腹中枢を刺激しにくいといわれます。果物をたくさん食べてもお腹いっぱいになりにくいのです。
果物はあくまでもデザートとして、1日の摂取の目安を200g程度にするとよいとされています。
リンゴなら半分、バナナなら1本、キウイ・みかんなら1個くらいです。
さらに果物をあまり食べないようにした方がいい人、特定の果物は避けた方がいい人もいます。
量を控えた方がいいのは腎機能が低く、カリウムが上がりやすいと言われている人。
果物にはカリウムが多いので、健康な人が食べる分にはカリウムが塩分を尿に排出しむくみを取ってくれるのでありがたいですが、腎機能が低いとカリウムを尿に出しづらくなっていることがあるので、量を制限しなくてはいけません。
それから、カリウムが上がりやすい降圧薬や利尿薬を内服している人(当院では採血でカリウムをチェックしていますので、聞いてみてくださいね)。
特定の果物を避けた方がいいのはカルシウム拮抗薬という降圧薬を飲んでいる人、抗てんかん薬を飲んでいる人。
該当するカルシウム拮抗薬はアムロジン・ノルバスク(アムロジピン)、アダラート(ニフェジピン)、アテレック(シルニジピン)、カルブロック(アゼルニジピン)、コニール(ベニジピン)、該当する抗てんかん薬はテグレトール(カルバマゼピン)、クロバザム(マイスタン)、エトサクシミド(ザロンチンシロップ、エピレオプチマル散)、リボトリール(ランドセン)です。(内服されている方が多い薬剤を列挙しましたが、ほかにも強い鎮静剤や抗がん剤も該当します)
これらを内服している人は、グレープフルーツなどの柑橘類を摂取すると、薬の効きが強くなることがあります。温州みかんは大丈夫なのでご安心を。
ときおり、患者さまから「こんなことを見たんだけど」と伺って、このような誇張した記事が多く出回っていることに驚かされます。
しかも冒頭に書いたネット記事、医師が語っているんです。
医師がエビデンスのないことを語るメリットはないので、注目を浴びようと目論んでいるとしか思えません。
改めて・・・おそろしい。
みなさんも真偽に迷うことがあれば、私たちに聞いてみてください。
専門外だとお返事にお時間をいただくかもしれませんが、できるかぎりお答えいたします。